何もかもがデジタルでできてしまうこの時代に、私たちが求めているもの。
それは「心が動く体験」なのです。
たった10分の乗り換え時間になぜ、多くの人はYoutubeを見るのでしょうか?
少しの隙間時間になぜ、多くの人はコンスタントにネットサーフィンをするのでしょうか?
驚き、喜び、興奮、恐怖心、感動…。
それらの感情を全てを求めて、私たちは毎日数十、数百のコンテンツを消費しています。
今記事では現代社会では当たり前とされているエモーショナルマーケティングについて概念や手法を深堀するだけでなく、
エモーショナルマーケティングを用いた事例もご紹介いたします。
CONTENTS
エモーショナルマーケティング
エモーショナルマーケティングとは、喜び、恐れ、怒りなどの人間の基本的な感情を利用して、消費者の反応を引き出すマーケティングの手法のひとつです。
基本的に私たち、人間の感情は自然に湧き出てくるもので、言い換えると無意識的に発生するため、感情そのものを毎分、毎秒コントロールすることはすごく難しいことです。
買い物をしている時も一緒で、一目見てその商品を「素敵!」と思った瞬間、私たちは理性で素敵と思っているわけではなく、
最初に感情で感じ、その後にその商品を購入する理由を理性で探していますよね。
しかし、多くの広告やマーケティングでは数字やデータを用いた論理的な情報や、その企業が何をしているかなどの渇いた情報ばかりに埋め尽くされていることがあります。
消費者の心を掴んで離さないためにも、マーケターはまず、感情の働きを理解し、人々の心に働きかけるマーケティング戦略を練らなければなりません。
なぜ、エモーショナルマーケティングは効果的なのか?
ある研究では、私たち人間は1日の中で約90%以上もの時間に何かしらの”感情”を感じて過ごしていると言われています。
信じられますか?私たちは21時時間以上もの時間を感情とともに生活しているのです。
ちなみに、寝ている時でさえも人間は何かしらの感情を持っているとされています。
確かに、夢の中でも好きな人が出てきたらドキドキしたり、怖い夢を見ると悪い意味でドキドキしたりしますよね。
着る服を選ぶ瞬間から、落ち込んでしょんぼりしている瞬間まで、私たちの行動のすべてが感情に起因しているのです。
安心感は作り出せる?
商品や自社のサービスを買ってもらうにはどうすれば良いでしょうか?
第一ステップとなるのは、まずあなたのブランドを消費者に理解、そして信頼してもらう必要があります。
では、それらを達成するにはどうすれば良いのでしょうか?
まずは、消費者の目に触れる回数を増やさなければなりません。
マーケティング業界では「認知」と呼ばれる段階にあたります。
人間は特定の物や人を目にする回数が増えることで、それらに既視感を覚え親近感を感じ始めます。
これを「単純接触効果」といいます。
例えば、あなたは自社でオリジナルドリンクを販売しているとします。
あなたのブランドの商品がA、他社の商品がBとして、消費者はあなたのブランドの広告を至る所で目にしているとします。
彼らは意識的にあなたの会社の商品を覚えようとしているわけではありません。
「しかし、いざAとBからどちらか選んでください。」
と、いわれるとあなたのブランドを手に取るのです。
これは、単純に脳が同じものを何度も目にすることで、理解を深めそれらに対して「自分は知っているもの」=異質でない と判断することが原因で起こるのです。
しかし、注意しなければいけない点がひとつあります。
人は、自分の興味のないものを何度も何度もあまりにも多くの回数目にすることで、それらが嫌悪感を引き起こす原因になってしまいます。
ですので、デジタルマーケティングではターゲティング広告やリターゲティング広告を施策で利用する際は十分にお気をつけください。
感動は人間を変える劇薬
多くの企業が活用しているもうひとつのブランディング戦略、マーケティング戦略は「感動」を呼び起こすコンテンツを活用することです。
感動は人が予期していないことが起こった時、瞬時に処理できない大量の情報を脳が受け取って、オーバーフロートしてしまう瞬間に感じる感情の一種です。
もし、その予期していなかったことが「嫌悪」に繋がってしまうとそれは「困惑」になってしまいますが、
その感情が「喜び」や「安心」だとすれば、それは人々が感動で涙を流す原因になるかもしれません。
脳科学者の茂木健一郎先生は感動について以下のように言及しています。
“自分の脳の働きを変える一番いい方法は、「感動する」ということです。
感動することほど、人を変えることはありません。逆に言うと感動は、人間を変えてしまう「劇薬」です。”
感動はその人の行動をも変えてしまう、強力な情動の動きなのです。
では、感動を作り出すにはどうすれば良いのでしょうか?
感動のメカニズムには”人は自分に関心のあることにしか感動しない”と”感動は不快の情動が快の情動に転換するときに発生する” という二つの原則があります。
しかし、情報の受けて側は、人それぞれ異なるバックグラウンドを持っているため、
全く同じ映画を見たとして、Aさんは「すごく感動した、心に響いた」と言っても、Bさんは「あまりだった。」ということがあります。
ですが、基本的には感情の振れ幅が大きければ大きいほど、人はそれを大きな「感情の変化」だと感じるので、しっかりとストーリーに強弱をつけることが重要になってきます。
恐怖訴求はもう古い?
恐怖訴求はマーケティング業界でも古くからずっと使われてきた手法です。
消費者の中に眠る潜在的な恐怖心を広告メッセージで煽ることで、彼らに「〜しなきゃ!」という気にさせることができるので、現在でも多くの広告で使用されています。
例えば、「あなたの〇〇は大丈夫ですか?」というコピーは恐怖訴求の常套句ですね。
大丈夫でない、と感じている人からすると少し「ギクっ」っとしてしまう言葉かもしれません。
正直、恐怖訴求は確実にオーディエンスの目を引き、感情を揺さぶることができます。
なぜかというと、人間は自己防衛本能により楽しい、幸せなどの快楽を訴求されるメッセージよりも、
自身の恐怖や苦痛を回避できる訴求に価値を見出すため、より行動に移しやすくなるのです。
このように、恐怖訴求は人間の本能的にも機能しやすいのですが、忘れてはいけない重大なポイントがあります。
それは、人間は恐怖や不安を感じたその”一瞬”はそれらに関心を示しますが、それが継続して起こると次第に”嫌悪感”に繋がります。
エモーショナルマーケティングはオーディエンスに与える効果が絶大な分、用途を考えないと思った以上に反感を買ってしまったり、炎上に繋がり兼ねません。
また、世に出回る広告やメッセージがあまりにも恐怖を煽るもの、
不安を煽るものだと人々の心を疲れさせてしまうことにも繋がりかねないので、そこはプロとしてしっかり注意していきたいポイントですね。
エモーショナルマーケティング海外事例15選
さて、基本的な感情の働き、とそれに伴うさまざまなエモーショナルマーケティング戦略について触れてきましたが、
ここからは実際のエモーショナルマーケティングの例を見ていきましょう。
1,Always #LikeAGirl Campaign
「女性らしくしなさい」「女の子でしょ」
もし、あなたが女性なら、この言葉は今までの人生の中で何度も何度も聞いてきたと思います。
あなたが男性だったとしても、誰かがこの言葉を言っているのを耳にしたことはあるでしょう。
女性に向けた商品を販売するAlways社は、日々の中で当たり前に言われている「女の子らしく」という言葉をフックに、「女の子らしさ」の意味を問い直したのでした。
キャンペーン動画の中で監督は女性に「女の子っぽく走ってみて」と言います。
すると、ほとんどの女性は「女の子」を演出して走ります。髪の毛が乱れるのを嫌がってみたり、少し手をジタバタさせてみたり…。
しかし、幼い女の子に全く同じ質問をすると…?彼女たちは一生懸命走るのでした。
そして、彼女たちに「女の子らしく走るってどういうこと?」と聞くと、「それは、自分のベストで走るということ。」と答えるのでした。
なぜなら、彼女たちの中には”社会的固定観念”が存在していないからです。
ここに「女性らしく」という言葉が私たちに与えている大きなプレッシャーや、バイアスの存在について再認識するべだというメッセージが込められているのでした。
社会に対する疑問、そして女性が感じていた怒りという感情を、たったひとつの質問で引き出し、
表現することができたこのキャンペーンは現在、Youtubeでは総再生回数は6000万回を超え、
クリエイティブの業界でもエモーショナルマーケティングの”お手本”として語られています。
動画リンク:https://youtu.be/XjJQBjWYDTs
2,エキゾティックな動物のお土産を買わないで
画像出典:http://www.oohads.co.id/news/view/20170706/88-scariest-ads-you-ve-ever-seen-in-your-life
“エキゾティックな動物のお土産を買わないで”
世界自然保護基金(WWF)は、気候変動の悪影響について語ることに妥協を許しません。
たとえそれが恐怖訴求になろうとも。
彼らの広告の目的は、ターゲットとなる人々に”行動を起こさせること”です。
目的が認知や検討などではなく、1人の人間の行動を変えるところにあるために、
よりパワフルな”怒りや恐怖、畏敬”といった激しい感情を引き起こすような広告メッセージを世の中に出しているのです。
3,P&G “Thank You, Mom – Strong”
2016年のリオ・オリンピックの際、P&Gは私たちの人生における母親の役割を強調しエモーショナルなキャンペーンを公開しました。
オリンピックというと、主役は選手で注目を集めるのも選手ですよね?
しかし、このキャンペーンビデオでは、彼らの”母親”にフォーカスし、オリンピック選手たちが子どもの頃に母親に励まされ、
慰められたことを思い出し、それがオリンピックに出場する勇気につながっていく様子が描かれています。
また、P&Gは家庭で使う洗剤や日用品を商材として取り扱う企業だからこそ、それらを多く使用、購入する”母親”をメインキャラクターとして起用したのでした。
“It takes someone strong, to make someone strong.”
誰かを強くするには、強い人が必要です。
このコピーがこのキャンペーンのターゲットや感動の全てを表現しています。
オリンピック期間に発表されたからこそ、オリンピックに出場する選手が主役なのかと期待しているオーディエンスを”いい意味で”裏切ること、
また多くの人が共感する”母親の存在”にフォーカスを当てることで感動を生み出しているのです。
動画リンク:https://youtu.be/rdQrwBVRzEg
まとめ
いかがだったでしょうか?”心理学”というと、少し固いトピックで近寄りがたく感じますが、マーケティングと同じでそれら全ては”人”が起点になっています。
人間の心の動きをしっかり把握した上で組み立て上げていくマーケティングには知識と私たち人間にしか感じること、思いつくことのできないアイデアが必要になってきます。
今回の海外のエモーショナルマーケティング事例やその他のエモーショナルマーケティング手法からヒントを得て、ぜひ、次回のマーケティング施策に活用してみてくださいね。