今日、オンラインの世界はデータで溢れかえっています。
アナリティクスダッシュボード、A/Bテスト、自動化されたマーケティングクラウドなど。
ビッグデータを使ってデータドリブンなマーケティングを行うことは、確実に結果に大きな影響をもたらす反面、それらを使いこなす為には時間がかかることも事実です。
では、今日から始められるマーケティング術は?
心理学を活用したマーケティングです。
海外で絶大な人気を誇るデジタルマーケティング界では有名なニール・パテル氏は著書の『The Complete Guide to Understand Customer Psychology』(=顧客の心理を理解する完全ガイド)の中でこう述べています。
「デジタルマーケティング担当者は、トラフィックの獲得数やコンバージョン率にこだわっていますが、
消費者はコンピュータ画面の向こう側にいる生身の人間であることを忘れがちです」と述べています。
この「生身の人間」にリーチする為には、彼らの心を理解しなければなりません。
ベーシックな心理学を学ぶことで、データを見たときに何かしらのパターンが見えやすくなるかもしれません。
そして、そのパターンこそが強力なマーケティング戦法になりうるのです。
今記事では実用的な心理学をデジタルマーケティングを軸に5つ、ご紹介していきます。
互恵性(お互いにとって有益な関係)
皆さんはレシプロシティー、互恵主義、相互主義という言葉を聞いたことがありますか?
互恵主義とは、 外交や通商などにおいて、相手国の自国に対する待遇と同様の待遇を相手国に対して付与しようとする考え方のことを言います。(引用:Wikipedia)
この原理はとても簡単で、人間は自分が何かを受け取ると、同じく自分も与える可能性が高くなるというものです。
ビジネスは何百年もの間、互恵主義に基づいてきました。
例えば、あなたが八百屋さんに行ったとき、その店のオーナーが「これ、おまけね!」と言ってリンゴを1つくれるとします。
すると、リンゴをもらったあなたは「プレゼントしてもらっちゃった!」と感じ、また野菜を買うときはあの八百屋さんに行こう! と、思いやすくなるのです。
もしくは、無意識的にそのお店へ行くことを選択するようになっているかもしれません。
その他にも、スーパーに行った際、よく試食を配っている店員さんがいますよね。
それも互恵性を引き出すものです。
「タダで試食をもらってしまったから、1つくらいは商品を買おうかな…」
こんな気持ちになったことがあるのは、私だけではないでしょう。
The Atlantic誌によると、「アメリカで展開している多くのスーパーでビールのサンプルを提供したところ、平均して71%も売り上げがアップした」というのです。
では、どのようにしてオンラインで互恵性を引き出せば良いのでしょうか?
最もわかりやすい方法は、「リードマグネット」や「コンテンツオファー」と呼ばれるものです。
リードマグネットとは、あなたがメールアドレスや氏名、
電話番号などの潜在顧客の個人情報と引き換えにあなたのウェブサイトを訪れる人々に与える「景品」、または「無料プレゼント」のことを言います。
コンテンツオファーもリードマグネットと同じく、営業活動の為に使用する潜在顧客の個人情報を得るために、こちら側から先に与えるコンテンツこことを言います。
それらのコンテンツがもし、無料にも関わらず潜在顧客に本当に為になるウェビナー、オンラインコースやeBook、最新レポートだとすると、
それらを手に入れた潜在顧客は次のステップに進む確率が格段に高くなります。
また、これらのコンテンツオファーを成功させるのに欠かせないのが「CTA」なのです。
CTAとは、Call To Action(コール トゥ アクション)の略で、「行動喚起」と訳されます。
具体的にはバナーや Webサイトにある「今だけ無料」や「ここからダウンロード」と言ったような行動を促す文言になります。
CTAはコンテンツオファーだけでなく、どのキャンペーン施策でも重要です。
しかし、特にこの互恵性を引き出す為にはCTAの存在が大きな鍵を握ります。
例えば、Webページやバナー広告に「無料コース開講中」や「今だけ無料〇〇プレゼント!」という文言があると無いとでは、消費者自身が感じる「恩恵」にも差が出てきます。
できる限り、受け取る側に「こんなにもらっちゃった!」「こんなにいいのかな?」「予想以上!」「無料で貰えちゃって、ラッキー!」という風なプラスの感情になってもらう為に、
高揚感を作り出さなければなりません。
それらの役割を果たす為にもCTAは欠かせないのです。
希少性
人間は何かを手に入れるのが困難であればあるほど、そのものが欲しくなる生き物です。
一言で言えば、それが希少性です。
希少性とは、商品やサービスの利用が限定的な(もしくは限定的と思われている)場合、より魅力的となる現象のことを言います。
消費者の欲求よりも、市場に提供されている供給量が少ないことで希少性は生み出されます。
では、私たち人間を「希少性」に駆り立てるものは何なのでしょうか?
それは、失うかもしれないという恐怖なのです。
人間を動かすトリガーは「得たい」という欲求よりも、「失う」ということに対する恐怖の方が遥かに強い力を持ちます。
ある調査によると、少なくとも56%の人がFOMOを経験しており、このトリガーが消費行動を促進し、ソーシャルメディアへの依存度を高める原因にもなっているのです。
FOMOとは、Fear of missing out の略で、「自分が居ない間に他人が有益な体験をしているかもしれない」、と言う不安に襲われることを指す言葉である。
また、「自分が知らない間に何か楽しいことがあったのではないか」、「大きなニュースを見逃しているのではないか」と気になって落ち着かない状態も指すことから、
「見逃しの恐怖」とも言う。(引用:Wikipedia)
希少性がいかに強力であるかを示す最も良い例は、アメリカにおける銃規制と銃販売の間の深い皮肉な関係です。
USAトゥデイ紙が今年9月上旬に報じた記事によると、「アメリカで相次ぐ銃乱射事件を受けて、銃規制の強化を求める声が高まっているが、
それがすぐに銃業界の活性化につながっているようだ」というのです。
なぜでしょうか?
人は手に入らないものを欲しがるからです。
銃規制の強化により、銃を手に入れることが難しくなるかもしれない=今は簡単に購入できている(銃を購入する機会を所有している)けれど、
今後銃を購入できる機会を失うかもしれない ということに対する恐怖から、この動きが怒ってしまったのでしょう。
では、このような希少性の強調をうまく行うにはどうすれば良いでしょうか?
シンプルな方法ですが、オンラインストアだと「残りあと2つ」などといった在庫の表示や、
「あと1時間30分でセール終了!」という限定感を出すメッセージは確実に消費者にカートボタンを押させる効果があります。
その他にも季節ごとのシーズナル商品の限定販売なども「今だけ」感を演出することができます。
季節感で言うと、大成功を収めているのはスターバックスです。
春夏秋冬といった大きな季節の中でも細かく、そして頻度も多く季節限定メニューが登場していますよね。
限定商品を味わうことが消費者の中でイベントと化しているので、スターバックスが新しい商品を発表する度にソーシャルメディアはその商品の写真で溢れかえるほどの人気なのです。
画像引用:https://youpouch.com/2019/12/27/622224/
一貫性とコミットメント
一貫性とコミットメントは、2つのレベルで機能します。
ひとつめとして、人間は過去の言動に基づいて、無意識的に未来の行動を決定しているのです。
これは、人間が対人関係や社会的な立場においても自分の行動や考えに「一貫性」があるように見せるために行うことで、
そのために私たちは無意識で多大な努力をするようになるのです。
例えば、ダイエットや禁煙など、ライフスタイルを大きく変える目標はその目標を公にしたほうが成功しやすいのですが、この理由がまさに「一貫性」の維持にあるのです。
「もう、タバコを吸いません!禁煙します!」
と、周りに公言した翌日にタバコを吸うことで「あれ?言ってることと、やってることが違うよね?」と言われることに人は自然と罪悪感や羞恥心を覚えるのです。
ふたつ目は、「小さなイエス」は「大きなイエス」の前にあるということです。
人間は誰しも、大きな決断をするには時間を要しますが、小さな決断だとさほど難しく感じないし、あまり考えないですよね。
営業を経験したことのある人なら、肌感レベルでわかるかもしれませんが、顧客からの最初の「はい」は難しいですが、2回目の「はい」は比較的簡単に引き出しやすくなるのです。
ここで重要なのは、コミットメント(=「はい」と言う回答)を一口サイズの行動にすることです。
小さなイエスに関しては、小さな行動が大きな変化をもたらします。
これをデジタルマーケティングに置き換えると、何ができるでしょうか?
例えば、登録ページの最後にある、規約に同意する小さなチェックボックスもコミットメントを促すものであったりします。
権威性
私たちが生きている社会でも、権威性はさまざまなところで使用されています。
後述する社会的証明(ソーシャルプルーフ)が群衆の力、つまり「自分と同じような人」の力を利用するのに対して、権威性の利用はこの原理の一歩先、特定の個人の力を利用します。
心理学者であるチャル・ディーニは権威性について、以下のように説明しています。
“人々が権威に自動的に反応する場合、その実体よりも権威が持つ、単なるシンボルに反応することが多い傾向があります。
効果的なシンボルとして研究で証明されているのは、肩書き、衣服、自動車の3種類です。”
つまり、人々は正当な権威に反応するだけでなく、その外観にも簡単に反応するのです。
例えば、健康食品やダイエット関連のビジネスでは、資格を持った医療関係者の推薦が効果的であったり、
アパレルではそのブランドの服を有名人が着ていることで、消費者の中では更に価値が上がるのです。
ドラマや映画の中で有名人が乗っている車や衣服がトレンドになったり、人気が出るのはこういった「権威性」に無意識レベルで人々が惹かれるからなのです。
しかし、セレブリティーや人気の有名人を雇う予算がない場合はどうすれば良いのでしょうか?
その答えは…「ロゴ」です。
ロゴとは、一目で誰にでも権威を感じさせることのできる、ミニマムサイズの保証書と言っても良いでしょう。
例えば、小さな会社でもその会社の製品を大手企業が購入しているのなら、その顧客をフィーチャーすることでこの利点を生かすことができます。
権威性を示すことで、人々はあなたのブランドやサービスを簡単に信用するようになるでしょう。
実際に、「導入実績」と検索するだけでこのような画像が無限に表示されるので、多くの企業やブランドがこの他社の権威性を自社のマーケティングに活用していると言うことが伺えます。
もし、あなたの企業の商品がある特定の分野で有名な専門家からの認証を得ていたり、有名な人が使用しているのであれば、それらの力をフルに活用するべきです!
ソーシャルプルーフ(社会的証明)
私たちが認めたくなくても、群衆は強力な力を持っています。
人間は避けて通れない社会性を持っており、単純な事実として人は群れて行動するのが好きなのです。
社会的証明(ソーシャルプルーフ)は、まさに私たちの人間の本能そのものに働きかけ、活用方法はシンプルですが効果は絶大です。
ソーシャルプルーフとは、心理学用語で「社会的証明」を意味します。自分の考えや行動に妥当性を持たせようとすることであり、
ある一定の状況下において、人間は周囲の行動や意見を見て、行動を探り、思考する習性がある。
例えば、私たちは行列ができている店を見た時に「列ができるほど人気があるということは、よい店である」と勝手に認識してしまったり、
新発売の商品がTwitterでバズっていると「きっと美味しいに違いない!」と試してもいないのに思い込んでしまいます。
簡単に言うとソーシャルプルーフは、実際の人々から寄せられる証言、推薦、評価を活用することなのです
例えば、ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、「レストラン評価サイトで星が1つ増えると、個人経営のレストランでは5〜9%の収益増につながる」という結論が出ています。
この研究が示すこと、それは消費者は購入の意思決定をする際に、常に他人の発言を評価していることを示しています。
言い換えれば、コンバージョン数や売上を増やすための最初の心理的なきっかけは、あなたから来るものではなく、
あなたの製品やサービスをすでに使用している人々がきっかけなのです。
UGCがマーケティングにおいて絶大な力を示すのは上記のことが理由なのです。
実際にその商品を利用したユーザーが自ら、使い心地やお気に入りポイントを他者とシェアすることほど、企業と潜在顧客にとってありがたいことはありません。
その他にも、Webサイト上に導入事例の記事を掲載したり、お客様の声を掲載したり。
その方法はさまざまですが、常にカスタマージャーニーのどこかしらで「リアルな顧客の声」に触れることのできるポイントを用意しておきましょう。
実際にソーシャルプルーフをうまく活用して、ビジネスを成長させたのがAirbnbです。
AirbnbのInstagramでは、実際にAirbnbを利用している顧客が旅先で撮った宿の写真や旅行の写真がリポストされています。
それらをリポストしている目的ははただ、顧客の楽しい旅行を祝福しているのではなく、
実際にAirbnbを利用することでこのような旅ができるかもしれないという「可能性」を潜在顧客に見せているのです。
画像出典:https://www.adalong.com/user-generated-content-ugc-the-best-marketing-asset-for-brands/
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はブランドに驚異的なコンバージョン、売り上げ、成長をもたらす5つの心理的トリガーをご紹介いたしました。
データドリブンなマーケティングは今日のマーケティング戦略やビジネスにおいて必須ですが、そこに心理学的な見解が加わることで、
思いも寄らないアイデアが生まれるかもしれません。
今回ご紹介したさまざまな心理トリガーを利用して、実践にあなたのマーケティング戦略に活用してみてくださいね。