マーケティングにおいて、多くのマーケターたちは人々の『感情を動かす』ということがいかに重要であるかを知っています。
人々の感情を揺さぶることのできるマーケティング施策や広告の制作を目標に、マーケターやクリエイティブは日々、試行錯誤しているのです。
特に、社会が激しく揺れ動くで消費者の心に触れるには、どうすればよいかと頭を抱えているマーケターも多いでしょう。
この記事では、海外でも多くのブランドやマーケターが実践するコロナ禍でも抜群の効果を発揮するであろう、
マーケティング戦略のひとつノスタルジアマーケティングについて解説します。
CONTENTS
ノスタルジア・マーケティングとは?
ノスタルジア・マーケティングとは、懐かしさや親しみやすさを感じさせるコンセプトを利用して、
新しいアイデアに対する信頼を消費者との間に築きやすくさせるマーケティング戦略のひとつです。
消費者の感情に働きかけることができるマーケティングは、消費者に行動を起こさせたり、彼らがブランドに愛着を持ち、支持する行動のトリガーになるものです。
このノスタルジア・マーケティングは、数あるマーケティング手法の中でも、特に強く人々の感情に働きかけることのできる、マーケティング戦略のひとつなのです。
また、ノスタルジア・マーケティングをうまく活用することで、新しいブランドも老舗ブランドも、強力な感情レベルで消費者とつながることができるのです。
ノスタルジアの概念とは?
ノスタルジアとは?
『ノスタルジア』という言葉は1688年にスイスの医学生、ヨハネス・ホーファー によって作られた概念でした。
2つのギリシャ語 nostos:帰郷 algos:心の痛み を合わせた造語で、言葉は「故郷へ戻りたいと願うが、
二度と目にすることが叶わないかも知れないという恐れを伴う病人の心の痛み」という意味を持っていました。
日本語では、異郷から故郷を懐かしむこと、またその懐かしさ。:郷愁(きょうしゅう)・望郷(ぼうきょう)
過ぎ去った時代を懐かしむこと、またその懐かしさ。:懐古(かいこ)・追憶(ついおく)
などが挙げられます。また、類語にレトロも挙げられますが、ノスタルジアとレトロの違いは、そこに存在する感情の違いです。
ノスタルジアは懐かしさや、切なさの意味を含む感傷的な表現です。対するレトロとは単純に「古いもの」「過去を想起させるような雰囲気を持つもの」という意味になります。
ですので、人々の感情を動かすもの対して使う場合には、ノスタルジアが適切だと考えられます。
最近、若者の間で流行っている「エモい」という言葉も、これらの意味から派生した言葉として考えられています。
なぜ、ノスタルジア・マーケティングは効果的なのか?
ノスタルジアが起こるメカニズム
なぜ、私たち人間はノスタルジアに強く影響されるのでしょうか?
サウサンプトン大学の研究では、ノスタルジアを感じた時の感情が実は体に良いことが判明したのです。
研究者によると、この感情は孤独、退屈、不安を和らげるだけでなく、ポジティブな感情を呼び起こすというのです。
孤独、退屈、不安は今の社会情勢を鑑みると、切っても切り離せない感情ではないでしょうか?ここにも、
ノスタルジア・マーケティングがなぜ、「今」効果があるかのヒントが見えますね。
では、「ノスタルジア」は人々のストレスを軽減できるのでしょうか?
心理学の研究によると、人間が懐かしさを感じやすいのは少しネガティブな気分の時で、
懐かしさを感じた後は逆に少しポジティブな気分に変わることが判明しています。
また、懐かしいと感じる時は、他の人に支えられているという「社会的つながり」を感じる度合いが高くなるという結果も出ています。
つまり、懐かしさには私たちの気分を調節したり、人との絆を深めたりする役割があるのです。
また、海外の調査研究では、消費者は懐かしさを感じさせるものにさらにお金を使ったり、
寄付をしやすい傾向にあるということがわかりました。
興味深いことに、ノスタルジアの感情は、その年代を覚えていないほど若かったり、
まだ生まれていなかったりしても、特定の年代にただ好意を持っている人にも起こりうるのです。
コロナが娯楽の選択に与える影響を調査した研究では、消費者の半数以上が、彼らが若い頃に見たテレビや映画、音楽に安らぎを感じているという結果がでたのです。
また、ニューヨーク州シラキュースにあるル・モイン・カレッジの心理学教授であるKrystine Batcho氏は、ナショナルジオグラフィックの取材に対し、
“一般的に、人は喪失感や不安、孤立感、不確実性がある時に、ノスタルジアに安らぎを感じるものです。” と述べています。
このような先行きな不安定な時代だからこそ、消費者の心に安心感を与えることのできるノスタルジア・マーケティングが抜群に効果を発揮できるのではないでしょうか?
ノスタルジア・マーケティング事例4選
ノスタルジアをうまく活用したマーケティング事例をご紹介
1,Netflixの大ヒットシリーズ「Stranger Things」
Netflixの大ヒットシリーズ「Stranger Things」
実は、このシリーズが人気になった理由の裏に、ノスタルジア・マーケティングが隠されていたのです。
このドラマのPRは主にソーシャルメディアアカウントを活用した、シンプルな施策だったのですが、彼らの実践したノスタルジア・マーケティングは強力な宣伝効果がありました。
作中のファッションやストーリーにノスタルジアを散りばめるだけでなく、インスタグラムの投稿などにも、フォントや画像の質感でどこか懐かしいテイストを残した投稿を作成することで、ソーシャルメディアで多くのファンを獲得し、大人気シリーズへと成長したのでした。
2,バーガーキングのリブランディング?
リブランディング(=ブランディングを新しくする)というと、ロゴやフォントなどそのブランドの見栄えを新しくすることを想像しますよね?
しかし、バーガーキングは違いました。
20年ぶりにバーガーキングはロゴをリブランディングしたのですが、そのロゴはバーガーキングが1970年代、80年代、90年代に使用していたロゴにそっくりなものでした。
ロゴのリブランディングを担当したエージェンシーのクリエイティブ・ディレクターであるリサ・スミス氏この施策について以下のように語りました。
“私たちは、さまざまなデザインの可能性を模索しましたが、バーガーキングが最も輝いていた1969年と1994年のブランドオリジナルの特徴的なロゴに戻ることがベストだと決めたのです。」”
過去に戻ることで、新しさを感じさせるという選択をとったバーがキング。
これは、顧客のノスタルジアを刺激するためのノスタルジア・マーケティングなのではないでしょうか?
https://latana.com/post/nostalgia-marketing/
3,新しいテクノロジーは慣れ親しんだキャラクターと共に?
Appleは世界で多くの顧客に支持され、最も愛されているテック企業のひとつです。
そして、その理由は彼らの計算された戦略的マーケティングにあると言えるでしょう。
多くの企業やブランドは広告を作る際、その時最もホットで勢いのある著名人を広告に起用しがちですが、アップルは一味違います。
2016年、iPhone 6の発表に彼らはクッキーモンスターを広告に起用したのでした。
この起用は彼らの広告ターゲットである、ミレニアル世代にノスタルジアを感じさせることが目的だったのではないかと言われています。
ミレニアル世代が幼いころに慣れ親しんだキャラクターを、
彼らが大人になった今起用することで結果としてビデオ広告として大きな成功とも言える4.5%という高いシェア率を達成し、
最近公開されたNG集でも25,000以上のシェアを獲得するほどの人気を博しました。
Appleは新しい製品の機能や商品自体をターゲットに合ったノスタルジアを通して伝えることで、多くの人々の心に信頼と安心感を与えることができたのです。
4,やっぱり、ミレニアル世代はノスタルジアに弱い?
マーケターやクリエイティブの人なら知っているであろう、ミレニアル世代に大人気のWebサイトBuzzFeed。彼らはコンテンツのひとつとして、ノスタルジアをまとったポップカルチャーに関する記事を数々投稿したのでした。
その結果、現在BuzzFeedのノスタルジアに関する記事は90年代のノスタルジーをテーマにしたカテゴリーを持つまでに。
ノスタルジア縛りでカテゴリを持てるほど、そこに読者の興味が集まっているということがわかりますね。
5,「懐かしい!」が心を掴んで離さない、マイクロソフトの動画広告
-Microsoft Internet Explorer – Child of the 90s
2013年に制作された、マイクロソフトのこの動画広告は、ただシンプルに90年代にアメリカの子供たちの間で流行したもの
(ヨーヨー、たまごっち、ゲームetc)を見事なストーリーテリングと共に紹介したものでした。
すごくシンプルにも関わらず、この広告は視聴者を彼らの楽しかった「あの日」に連れて行くことに成功。
その結果、この広告はアメリカで「エモい」広告として人気となったのです。
この広告からわかること。それは、懐かしさが「喜び」や「驚き」以上に、人々の「共感」を簡単に生み出すことのできる感情なのかもしれません。
まとめ:ノスタルジア・マーケティングを成功させるには?
ノスタルジア・マーケティングはターゲットを定め、彼らの育ってきた背景をしっかりと捉えることが成功の鍵だと言えるでしょう。
例えば、ミレニアル世代とGenZ世代では懐かしさを感じる音楽や、アニメキャラクター、言葉なども大きく変わってきます。
それらの要素をうまく「新しい」ものと掛け合わせることで、たとえその商品が新しいものでもノスタルジアを消費者に感じさせることができれば、
それは彼らにとって「安心できる、新しいもの」になるかもしれません。